「人に迷惑をかけないように養蜂をしましょう。」
これは先日、養蜂の講習会で行われたときに講師の先生が言われていたことです。
もちろん、その考え方は正しい。
でも、僕の中にはどうしても違和感が残りました。
なぜなら、そもそも人間は――僕も含めて――
誰かに迷惑をかけながら生きている生き物だからです。
だからこそ、「人に迷惑をかけるな」と生きるよりも、
自分も迷惑をかけてしまう存在だから、相手の迷惑も許す
という姿勢のほうが、僕にはしっくり来る。
そんなふうに考えていたら、ふと気づいたことがありました。
なぜ養蜂家の世界では、
互いに距離を置いたり、意地悪に見えてしまう場面が多いのか?
そして、もしその原因が性格ではなく構造にあるのだとしたら――
どうすれば改善できるのか?
どうすればミツバチのように助け合えるのか?
講習会の言葉は、そんな問いを深く掘るきっかけになりました。
この記事では、僕が講習から考えた
「養蜂家が意地悪に見える理由」と「その解決策」
について書いています。
養蜂家は意地悪が多いと言われる理由とその解決策の糸口を辿っていくのでぜひ最後まで読んでみてくださいね。
ミツバチは利他的に生きている
巣箱の中のミツバチは、徹底した利他性で動きます。
利他性っていうのは、自身を犠牲にしてでも仲間や周りのために動く性質のことをいうよ。
ミツバチは本能でこの性質がインプットされているよ。
- 働き蜂は自分の寿命を削ってコロニーを支える
- 役割が変われば行動も変わる
- 誰かが弱れば、別の誰かが自然に補う
個よりも群が優先。
群を守ることが個の幸せでもある。
人間から見たら美しすぎる社会のように見える。
この利他性があれば、養蜂家同士うまくやっていけるのでは?とぼくは思っていました。
でも、人間社会では、
個々が独立した人生を持ち、考えも価値観も違う。
ということは、
ミツバチのような利他モデルを、人間にそのまま期待するのは無理
なんじゃないか?
という風に思ったのがこれを考えるきっかけとなりました。
「人も利他的に教え合えばいいのでは?」という素朴な疑問
隣の養蜂家がダニ対策をできていないなら、
僕が知っている方法を教えればいい。
それで地域全体のダニ密度が下がれば、
みんなが助かる。
それなのに、現場ではなぜそれが機能しないのか?
養蜂家は本当に意地悪なのか?
実はそうではなく、
そこには教えれば解決するが通用しない理由がみつかりました。
ダニ対策は養蜂家にとっては不可欠。
ダニが繁殖してしまう、ということは近くに病気や感染症がまん延してしまうということ。
このことから、近くで素人が養蜂を始めることは養蜂家にとって存続の危機となってしまうのです。
これが養蜂家が意地悪だといわれる理由に直結しているのだと思っています。
教えれば解決するが通用しない4つの理由
ぼくが考えた、人が利他的に教えれば解決するが通用しない理由は4つあります。
1. ダニ対策は勉強量が多く、簡単ではない
女王の状態、蜂児の有無、薬剤の特性、群勢の見方……
ダニ対策は、ただ方法を教えただけでは到達できない、ということがいえるでしょう。
ビースペースや新群作成、夏や冬の産卵停止、さらにはアピスタンやアピバール、チモバールといった薬剤投与やその使い方、養蜂家としてダニ対策を学ぶことは本当に尽きない課題となっていることを感じています。
特にこれを説明したらといって「できる」…ということにはならないのが現実です。
2. 「自分は大丈夫」と思ってしまう心理の罠
人は誰でも、自分のやり方を否定されたくない。という心を持っていることと思います。
- 「うちは毎年取れてるから」
- 「親父のやり方で問題ない」
- 「薬は嫌いだから使わない」
こういう確信があると、アドバイスは届きません。
ある時期に一斉に群がいなくなってしまう時には時すでに遅し…
ダニや病気は蔓延している状態となってしまうのです。
ベテラン養蜂家同士でも、ダニに対する対策は違うことや違う意見を持っていることもあります。
3. 善意で教えたのに「責任」を負わされるリスク
もし僕が教えた方法で、その人のミツバチが死んだら?
- 「あいつの言う通りにしたからダメになった」
- 「責任とれ」
こうなるケース、実際に考えられるでしょう。
どんな策を講じたとしても絶対、ということはありません。
ましてや、世界的にも対策が難しいと言われているダニ対策に至っては、なぜ全滅してしまったのか?ということが分からないことも多いでしょう。
だから、皆慎重になる。
教える=リスクになる、ということは考えておかなければならないのです。
4. 信頼関係なしには成り立たない助け合い
ミツバチは遺伝子で繋がっているけれど、
人間はそうじゃない。
- 年齢
- 立場
- プライド
- 家族経営
- 競争の意識
- 過去の摩擦
こういった要素が絡むと、
正しいことでも素直に受け取れなくなる、ということも言えます。
つまり、人間はミツバチほど利他の集合体にはなれない構造がある、ということです。
ミツバチは利他的にならざるを得ないという本能を持っています。
これは子孫繁栄が目的であるから、といえるでしょう。
しかし、人間は個の感情や目的があり、必ずしも子孫繁栄が目的でないことから、利他的になる必要がないこともいえます。
ここについてはとても考えさせられることです。
それでも、利他的な助け合いは不可能ではない
人間同士が利他的になり協力することはとても難しいことです。
しかし、ぼくはこの利他の精神を人間が持つことは不可能ではないと考えます。
ポイントは、
「個人の善意」ではなく、「仕組み」で利他を生み出すこと。
ミツバチは本能で利他をやっているけれど、
人間は仕組みや環境が整わないと利他になれない。
ここにヒントがあります。
年金制度なんかを思い浮かべてもらえば腑に落ちるかもしれません。
働けるうちに、強制的に年金として徴収され、高齢者を支える年金額に反映される。
これも、自身が高齢者になったときには受け取る側になることができる。
まさに、ミツバチの利他の例を人間環境に落とし込んだ例なのではないでしょうか。
個人同士ではなく仕組みを使って助け合う
この養蜂業界の問題は個人の感情ではなく、仕組みを使って改善しよう。ということを話してきました。
具体的な対策としては、以下の2点があげられます。
- 飼育の届け出をしっかりと提出する。
- 養蜂協会へ加入する。
順番に解説をしていきます。
解決策①:飼育届の提出
飼育届は単なる「役所への報告」ではありません。
光源寺先生も強調していたように、
これは地域の養蜂家の配置を調整するための仕組みです。
- 近すぎる場所に巣箱が置かれないようにする
- 病気やダニが広がりにくい環境をつくる
- 養蜂家同士のトラブルを未然に防ぐ
これらを行政が把握し、
必要に応じて調整することで、
「知らないうちに迷惑をかけてしまう」
「気づかないうちに迷惑を受けてしまう」
という問題を防げます。
つまり飼育届は、
自分を守り、周りも守るための助け合いの仕組みなのです。
解決策②:養蜂協会への加入
協会に入ることは、
個人の限界を超えて地域としての養蜂力を高める行為です。
- 最新の正しい情報が入る
- ダニ問題・病気の情報を共有できる
- 行政との橋渡しをしてくれる
- 薬剤や制度の改善について国へ働きかけてくれる
- 何かあったときに相談できる相手ができる
個人で養蜂をしていると、
「何が正解かわからないまま時間だけが過ぎる」
ということがどうしても起きます。
協会に所属しているだけで、
助け合いの土台が自然に整うのです。
養蜂はひとりで完結しない。
だからこそ個人対個人ではなく
個人 × 仕組み で支え合う必要があります。
解決策は、養蜂をやりやすい環境にすること
そして最終的なゴールは、
養蜂家ひとりひとりが「続けやすい環境」をつくることです。
僕が大切だと考えているのは、次の4つです。
① 初心者でも恥ずかしくないコミュニティをつくる
「知らないことが恥になる空気」ほど危険なものはありません。
- 気軽に質問できる
- 失敗しても責められない
- お互いに学び合える
そんな場所があると、地域全体の技術が底上げされます。
② 情報共有できる場をつくる
養蜂は地域差が大きい世界です。
- ダニの発生傾向
- スズメバチの動き
- 蜜源の状況
- 天候と群の変化
これらを共有できる場があるだけで、
判断の正確性が一気に上がり、事故も減ります。
③ ダニ対策の時期を揃える
ひとりだけが頑張ってもダニは止まりません。
隣の群が無防備なら、すぐ戻ってきます。
だからこそ、
「地域全体で同じタイミングで対策する」
これがいちばん効果的なダニ対策です。
協会やコミュニティがあれば、
その足並みを揃えやすい。
④ 学校や地域とつないで次世代を育てる
あなたが取り組んでいる学生養蜂の支援は、養蜂の未来をつくる重要なアクションです。
次世代に理解者が増えるほど、地域に協力の文化が育ち、養蜂が続けやすくなります。
おわりに:意地悪に見えるのは、悪意ではなく構造の問題
養蜂家は意地悪でそうしているわけではない。
むしろ、みんな必死に自分の群を守ろうとしているだけ。
- 情報不足
- 協力の仕組み不足
- 相談相手がいない
- ダニや病気への不安
- 小さなミスが大きな損失につながる環境
こうした構造のストレスが、
結果として意地悪に見えてしまうだけなんです。
だからこそ、
仕組みを使って助け合うことで、人は優しくなれる。
養蜂を続けやすい環境を整えれば、
ミツバチのように自然に支え合う世界に近づいていく。
それをつくる最初の一歩は、
飼育届を出すことかもしれないし、
協会に入ることかもしれない。
小さな行動でも、
確実に未来の養蜂を変える力になるのではないでしょうか。
